作品紹介 「横浜アニバーサリー」 作者 かがみ透
横浜の風情を感じさせてくれる短編をご紹介。
ある夫婦の食事とお酒、散歩する様子を通して横浜の情景を綴った作品。
私は学生時代、横浜から京浜急行線で十数分の上大岡に住んでいたので、友人や彼女と横浜の港側の山下公園や中華街にはたびたび行っていたことを懐かしく思い出した。
この物語自体は、横浜が舞台でなくても良いのだろう。でも、作者さんの横浜への思い入れが、情景描写で強く感じられていて、作者さんにとっては横浜でなければならなかったのだと感じる。
その思いが横浜へ行ってみたいなと読者へ感じさせるのだろう。まして、私のように作品内で触れられている場所を知っていれば尚更だ。
ブリキのおもちゃ博物館、ああ、そばを通っても、友人に教えて貰わないと気付かなかったな。
港の見える丘公園、山側の出入り口に入園可能時間の看板があって、その時時計で確認したな。
・・・・・・・・・・
昔の思い出が蘇ってくる。
そう離れた場所に住んでるわけではないのですが、最近行ってないせいかノスタルジー感じましたね。
この作者さんが小憎いのは、ちょっとした情景描写が響くところです。これが横浜の空気を感じさせる。フカヒレマン、シュウマイ弁当、東京ではちょっとした駅ビルなら売っているのだけど、でもイメージは横浜だ。
そういったワードをちょこちょこと出してくるものだから、登場人物の夫婦のやり取りに思いを巡らせながら、同時に、自分の思い出をなぞっている。
そしてきっとこういった描写の数々が、横浜へ行ったことのない読者へも空気が伝わるのだろう。
作品内のご夫婦の素敵なデートを見守りながら、横浜を感じて欲しい。
そう思える短編作品です。
作品紹介 「金色の眸に映る世界」 作者 秋保千代子
ややダークなファンタジー作品をご紹介。
王位継承候補の一人、金色の瞳を持つ桂雅(けいが)。彼が継承争いの内乱を制するまでの十日間の物語。弟を人質に取られた魔術師、玉座を狙う王子の友人、そして、未来を託された娘。金色の眸を持つ王族たちが繰り広げる群像劇とも言えます。
この作品に出てくる王位継承者は、どこかしらに大きな欠点があり、おかげで配下は苦労させられる。そしてその配下連もまたそれぞれに秘密を持ち、複雑な人間関係のなか話は進んでいく。話が進行するにつれて、登場人物達の持つ秘密は明らかとなり、そして解決し、王位継承者の中で桂雅(けいが)が生き残る。
この作品では、登場人物それぞれの経験が丁寧に語られ、読者はその一人一人の経験に心情を寄せているうちに作品世界に連れて行かれる。それぞれが癖のある人物ですので、誰かに共感し気持ちを寄せるでしょう。そしてその人物の先がどうなるかに関心をもち、ストーリーの行方を追うことになる。
内容が濃いので、もう少し字数をかけても良い作品ですが、七万字以内にまとめられ、読者の負担を軽くしてくれています。その上、ストーリーのテンポが良いので、気付くと読み終えている、そんな作品です。
私の好きな中華風作品でもあり、皆さんにも是非楽しんでいただきたいです。
作品紹介 「本日は、午後休取って幻獣狩り!」 作者 深海 映
身近に感じられるファンタジー作品をご紹介。
主人公の西野は秋田県土田舎村の「猟友会」所属のモンスターハンター。愛用の武器、竹槍を片手に幻獣被害から住民を守っている。
幻獣を倒しているうちに、幻獣が出現する原因である黒の魔術師の存在が明らかになっていく。そしてこの作品内で語られる異世界とは? 結末は?
秋田というと最近(2017/10/10時点)熊の被害がニュースになる。私も熊が出没する地域出身で、熊被害の恐ろしさは理解しているので心配している。
この作品では、熊ではなく幻獣が出没し住民の安全を脅かしている設定。作者さんは、秋田の現状を危惧しつつこの作品を書いたのではないかと勝手に想像している。獣との戦いが現実なのだと頭に置いて読むと、ほのぼのした描写の裏にある恐怖も感じられる。
除草剤や地引き網で幻獣を倒していく様子はコミカルでもあり、現実を意識させるところでもある。異世界で敵を倒すというと格好の良い戦闘を予想してしまうが、この作品では泥臭いものになっている。だが、作者さんの軽快な描写のおかげで、泥臭いはずの戦闘もテンポ良く楽しめる。
ほのぼのした田舎生活の中で繰り広げられるファンタジー。ちょっと変わったこの作品。田舎の様子を思い浮かべながら楽しんでください。
作品紹介 「レインドロップ*ティアドロップ」 作者 六月菜摘
きらきらした滴が印象的な短編をご紹介。
主人公の河野露花は、二年付き合った彼と別れある高原へ旅行へ行く。
彼への気持ちを残したまま、主人公は誕生日を「天気雨」という名の小さなホテルで過ごす。そこで主人公は一人の男の子と出会い、自身の弱い気持ちを自覚する。発熱して倒れた主人公が目覚めたとき、主人公の前に居たのは……。
この作品では、雨と飴とを使って状況や心情の描写しているのですが、滴や飴の透明感がキラキラとした情景をイメージさせ、とても効果的で読後も記憶に残る。透明な色とりどりのビー玉も私は思い出していましたが、読み終わって考えると、イメージが分散しちゃうからやはり雨と飴だけでいいなと思ったり。
「作品紹介 「葉月先生の恋」 作者 六月菜摘」でも書いたことですが、この作者さんの作品は可愛らしくそして癒やされます。作品途中の切なさも、辛すぎるほどの感傷を呼び起こさせない。大人の恋愛ものを読むと感情移入して深刻になりがちなのですが、作品内に過度にのめり込まずに済むので気軽に読めます。
六千字もない作品ですので、通学、通勤帰りにでもサクッと読んで楽しんでください。
作品紹介 「夢路の宝は返品不能!?」 作者 冴吹稔
日帰りファンタジーコンテスト参加作品からご紹介。
舞田周防(まいだ・すおう)、彼は夢の中でファンタジーな異世界へ行く。そしてこちらの世界へ戻ってくる際には、異世界から何かを一つ持ってくる能力を持つ。ある日彼が目覚めたとき異世界から持ってきたものはエルフの美少女だった……。
主人公は低賃金労働者でごく普通の男性。その彼が連れてきてしまったエルフの美少女は王女様。作者さんの描写によって、この王女様がとにかく可愛らしく描かれている。
この王女様に萌えるだけでもこの作品を読む価値があります。
テンポの良い展開に、ストーリーもよく練られていて、結末には驚くことでしょう。
異世界の問題を解決しつつ、主人公が自身の能力の謎を解き、ハッピーエンドを迎えます。
エルフ美少女に萌えながら、主人公の奮闘を是非見守ってください。
楽しい時間をきっと過ごせると思います。